「菌の見える木桶酒」が販売開始されました。

この木桶酒は、土田酒造株式会社(群馬県利根郡川場村、代表取締役社長:土田祐士。以下、土田酒造)、発酵デパートメント(東京都世田谷区、運営:株式会社発酵デザインラボ、代表取締役:小倉ヒラク、以下発酵デパートメント )、そして株式会社BIOTA(東京都千代田区、代表取締役社長 伊藤 光平、以下:BIOTA)の、3社のコラボレーションで誕生しました。

 


 

「菌の見える木桶酒」は、酒母期間約5ヶ月、麹歩合40%。開栓してから常温で熟成させて変化も楽しめる日本酒です。この木桶酒の製造においては、BIOTAと土田酒造の「酒蔵内マイクロバイオーム(注1)の共同研究」が並行して実施されました。

 

本研究の目的は、室内マイクロバイオームの解析技術を保有するBIOTAと、微生物による発酵を最大限に活用し、酒造りに取り組んでいる土田酒造が協働し、酒造りに貢献していると考えられる蔵付き菌を、明らかにすることです。我々は、土田酒造が製造する酒母、および仕込みに用いる酒蔵の室内表面から採取した微生物の解析を行うことで、木桶酒を醸す菌の「可視化」に挑戦しました。

 

 

この研究成果は今後、伝統的な日本酒造りにおいて、蔵付き菌のポテンシャルを引き出すことで、多様な味を生み出し、さらに酒蔵内の効率的な衛生管理に貢献できると期待されます。なお、本研究は2報のプレプリントとして公開済みであり、現在国際誌に投稿中です。

 


1報目

土田酒造が行う生酛造り(注2)の酒母(注3)におけるマイクロバイオームが、従来報告されているものと異なる、独特な組成であることを報告しました。これまで酒母においては、醸造初期は乳酸菌であるLeuconostoc属が出現し、次第にLatilactobacillus属という別の乳酸菌に遷移すると考えられていました。しかし本研究では、醸造後期においてもLeuconostoc属が主に検出され、Lactobacillus属は全体を通して少量しか検出されませんでした。※ 2023/03/15時点で採択済み(A unique case in which Kimoto-style fermentation was completed with Leuconostoc as the dominant genus without transitioning to Lactobacillus | bioRxiv)

 

2報目

独特なマイクロバイオームを明らかにした1報目を受けて、蔵付き菌の観点から、そのマイクロバイオームの形成機構について調査しました。建造環境や道具、原料等の外部環境に存在する微生物群集由来DNA配列と酒母の微生物群集由来DNA配列を比較した結果、外部環境と酒母には共通する配列が確認できました。例えば酒母発酵に重要な役割を示していたLeuconostoc属由来DNA配列は発酵タンクから多く検出されました。また、発酵初期の酒母では、不定菌を高い割合で含むマイクロバイオームが見られ、これらの不定菌は外部環境と高い割合で共有されている可能性が示唆されました。

 

以上のことから、蔵付き菌を、発酵に有用とされている乳酸菌のような特定の微生物として捉えるのではなく、群集構造として蔵に定着する「Kuratsuki microbes」として考える必要があると考えられます。(A dark matter in sake brewing: Origin of microbes producing a Kimoto-style fermentation starter | Frontiers in Microbiology

 

用語説明

注1:マイクロバイオーム

   ある環境中に存在する微生物の総体のこと。

注2:生酛造り

   乳酸菌や硝酸還元菌で雑菌を淘汰し、酵母が活動しやすい環境を作りアルコール発酵を促進する伝統的な手法。

注3:酒母

   酵母を培養した清酒発酵のスターターのこと。


 

本研究における計算資源の提供について

本研究で実施されたゲノム解析はモルゲンロット株式会社(東京都港区、代表取締役 井上博隆)のプラットフォームを活用しています。同社では再生可能エネルギーの余剰電力を利用し、計算資源およびプラットフォームを研究所・企業等に提供しています。

 


 

BIOTAの取り組み

BIOTAは、生活空間の微生物の多様性を高めることで健康で持続性のある暮らしの実現を目指して研究活動や事業に取り組んでいます。

 

 

弊社のコア技術であるマイクロバイオームのゲノム解析は、生活空間を中心に発酵食品やヒトマイクロバイオームなど多様な分野で用いられ、大学、企業、公共機関と連携し共同研究を進めています (事例)。

 

 

BIOTAでは、本取り組みを通して微生物多様性の価値向上と認知拡大を図り、より良い社会実現に活かすために研究開発と社会実装をより一層加速していきます。

 

お問い合わせ先:info@biota.ne.jp

会社URL:https://biota.city/

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